院長の独り言 113 ; 先輩!金の値段が上がって良かったですね
自分は株取引をほとんど行っていないので、バブルの頃から今に至るまで世間で囁かれているように、株が上がって儲かったとか、暴落して大損した…などの話は、遠い世界の出来事としてあまり興味がありません。
しかし或る時、知り合いの証券会社の人に勧められて、比較的に値段の上がり下がりが少ない大企業株を少々、所有してはいるのですが、長い期間、ただ保管していると云うところです。
少しでも株を所有していると、一応、経済に関する新聞記事に眼を通すので、今、日本国家が多額の負債を抱えて大変な事態になっているとか、ユーロが異常に安くなっているのでヨーロッパ旅行に行くチャンスである事などは理解しています。
株取引の好きな友達が言うには、『株で大儲けしてやろう!なんてスケベ心を出すと大損してしまう…』のだそうです。
或る時、その友達が株取引で儲かる方法を私に伝授して呉れると言うのです。
そこで眉に唾をつけて聞いてみる事にしました。
株で少し儲けてやろうかなと少し思ったのも事実です。
その方法とは、幾つかの銘柄の株価の動きを1年間、グラフにして観察すると、殆どの銘柄の株価には上限と下限の範囲があって、その間を行ったり来たりするのだそうです。
株を買う目安はグラフの下値より下がった時に、また売る時は上値の少し手前で売るのがコツだそうです。
中間の値の時は、決して手を出さないように我慢が大切との事です。
何だか当たり前の事のようで、真剣に聞いて損したような気分でした…。
ところが友達が言うには、これが簡単に出来そうで出来る人はすごく少ないのだそうです。
値が上がってくると、もっと上に行くのではないかと欲張る事になってしまい、それを期待して待っている投資家が殆どだそうです。
待っていて良い結果が出る時もたまにはあるのだそうですが、こう云うタイプの投資家は長い眼で見ると損をしている人が圧倒的に多いそうです。
そして少ない儲けを確保しつつ、コツコツと頻繁に取引しなければ駄目だと言うのです。
友達の話を聞いていて、何だかミミッチイ様な気がしてきて、やはり株への投資は自分には不向きであると確信しました。
話は飛びますが、30年程前に私の懇意にしていた先輩が、ある日、1㎏の金の延べ棒を80万円で購入したと言って、その現物を見せて呉れたのです。
実際に持たせても呉れたのですが、手にずっしりと重く、ピカピカと山吹色に輝き、『流石、ゴールド!』と感心したものです。
その後、日本経済はバブル期に向かって、金の値段がどんどん上昇し、一番天井の値段が1㎏700万円を超えたのです。
先輩の鼻高々で大喜びしている顔が目に浮かびました。
ところが話はハッピーエンドとは行かずに、その後、ご承知のようにバブル経済は物の見事に弾けてしまい、金の値段も1㎏80万円に下がってしまったのです…。
元の黙阿弥とは此の事を云うのでしょう。
さぞ、がっかりしているであろうと、先輩をどうやって慰めたら良いのか正直、悩みました。
ところが恒例の医局新年会で、その先輩にお会いしたのですが、ニコニコと微笑みながら先輩は『投資なんかこんなもんだよ』と言って、小生の注いだビールをグッと飲み干したのです。
ホッと胸を撫で下ろし、いつも通りに色々、四方山話で盛り上がり、楽しい新年会でしたが、その時、友達のあの『株取引の教訓』がフト頭に浮かんだのです。
そして更に時は進み、現在の金の値段は1㎏350万円を超えています。
先輩、良かったですね。