内田樹氏『日本辺境論』を読む

いま話題の新刊に、内田樹氏『日本辺境論』があります。私も大変面白く読了しました。

その解説に、同書の明確な要旨が記載されているので紹介しますと、

『常にどこかに「世界の中心」を必要とする辺境の民、それが日本人なのだ』とまとめています。

私が、特に興味深かったのは、近代日本の解釈です。

日本は明治維新より、それまでの中国の王朝を「世界の中心」とする華夷秩序を捨て、帝国主義という新しい「世界の中心」を取り入れ、日清・日露戦争と勝利しました。しかし、その次の「世界の中心」であるところの、ヴェルサイユ条約による「新しい国際秩序の創出」を理解できなかったと訴えます。欧米の人々は第一次世界大戦を通して、帝国主義の次の国際秩序を模索し始め、特にヨーロッパの人々においては、帝国主義の手段である戦争にコリゴリし、国際協調を求めていたのだと。

その結果、大東亜共栄圏の理念を持ち上げ、日本自体を中華としてしまって、本来の「辺境の民」としての日本人像を見失い、敗戦したと解釈しています。

明治から第二次世界大戦の敗戦、そして現代に至るまで、「国際社会はこれからどうあるべきか」といった強い指南力をもったメッセージを、日本はついに発信できなかった。ただ生き延びるのに精一杯だった。そこから更に論を進め、辺境人の「学び」は効率が良い等、筆者の教育論や日本語論へと展開します。この辺境人的な囚われが、日本の宿痾であり、強みである。とことん辺境で行こうと、内田氏は訴えています。(同じ内田氏「街場の教育論」もお勧めです)。

話は飛びますが、今月訪中したカナダ首相に対して、冷遇をもって中国政府が対応したことが、新聞各紙で報道されました。記事によると、人権重視の姿勢を全面的に打ち出し、中国の人権や少数民族政策を批判したカナダへの見せしめとしたようです。

この記事を読んで、内田流に解釈すれば、日本が強い指南力をもったメッセージを発信できない一方、中国の宿痾は華夷秩序による拡大主義ではないかと思いました。

いまコぺンハーゲンでCOP15(国連の気候変動に関する国際会議)が開催中です。

議題は、温室効果ガスの排出削減についてです。日本は、「2020年に温室効果ガス排出量を1990年比25%削減する」という非常に高い目標を掲げていますが、世界最大の温室効果ガス排出国である中国の目標決定は非常に抑えられたものです。また、世界第二位の温室効果ガス排出国であるアメリカは、2005年比で17%減(90年比で約4%減)です。

冷戦後のアメリカは、唯一の超大国として君臨し、イラク戦争など国際協調をないがしろにし勝ちでした。つまり、その姿は極めて覇権主義的です。

また、中国は、30年後にはGDPがアメリカを追い越し、世界一になると予想される、新時代の超大国です。

「ゴーマニズム宣言」で著名な小林よしのり氏は、「中国人民共和国とアメリカ合衆国は人工的な国家という点で類似している」と述べています。両国社会の純利益追求的考え方も似ています。

国際社会に強い指南力をもったメッセージを発信できても、他者を自己に都合の良いように変化させる欲望が強いのも考え物です。

2033年前後には、およそ人口15億人というピークに達する超大国が、お隣に存在します。今のような国の有り様を示す中国が、世界のリーダーシップを発揮できるのか非常に疑問ですし、アメリカの代わりに、中国という新しい覇権国家が出現するのか不安です。

内田氏の訴える“辺境の民”としての功利性だけで、国として自主、独立を保てるのか、疑問が残りました。

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