院長の独り言 177 ; 裸のお付き合い

小生が在籍していた歯科保存学教室は、教授以下20数名の医局員で構成された教室でした。

新入医局員が入局して来て暫く経つと、親睦を兼ねて一泊旅行をする事が有りました。

大きな組織と異なり、小ぢんまりしていたので、新入医局員(助手、大学院の学生、専攻生)が入って来ても、直ぐにお互い顔を覚えてしまいます。

別に一泊旅行などする必要がない様に思えるのですが、これが大違いで、一緒に温泉に入り、宴会で酒を酌み交わすとアッという間に、親密度が増すのです。

教室員同志、親密度が増すと、教室の雰囲気も明るくなり、仕事の打ち合わせもスムーズに行き、結果として、学生に対する指導も、教室の研究も、さらに患者さんに対する治療にも良い影響を及ぼすのです。

学生時代に教わっていた時は凄く怖いと思い、また意地悪な先生だと感じていたS教官。

何しろ、取っ付きにくい先生なのです…。

入局してからも何となく敬遠していたのですが、この親睦会の旅行を境に、一遍に親密度が深まり、一緒に温泉に入ったり、熱燗を差しつ差されつした日からは『修ちゃん、修ちゃん』と、何かにつけて声を掛けて呉れる様になったのです。

学生の時の『負の印象』と異なり、付き合えば付き合うほど、味のある素晴らしい先生である事が分かってきました。

『物には触れてみよ、人には添うて見よ』とよく言われますが、人との付き合いは、上辺だけの付き合いではその人の本質には所詮、触れる事は出来ないのでしょう。

多分、親睦会に参加しなかったら、S先生と道で偶然、逢ったとしても、挨拶程度のお付き合いで終わっていた事でしょう。

開業してからもS先生との付き合いは続いて、色々な人生勉強をさせて貰いました。

S先生曰く、歯の治療でも、患者さんが『上の歯が痛い!』と訴えてきたら、先ず『下の歯をよく観察せよ』と、私が未熟で若い時に忠告して呉れましたが、この言葉は治療の神髄をついていると今でも思うのです。

お陰で診療している時に、この言葉を思い出して、焦る事も無く、慌てずに落ち着いて治療を無事、済ませています。

要するに、患部だけを診ないで、周りを十分、注意して事に当たれと云う事です。

この言葉は歯の治療の時だけでなく、自動車の運転の時や会議の時など、あらゆる場面で応用している私なのです。

入局して研究などで悩んだり、随分と苦労しましたが、入局したからこそ、良い先輩、同僚、後輩に出会う事が出来たのです。

小生にとって、保存科に入局して経験した事は生涯の宝物です。

いくら卒業後、医局に残っても、教室員と積極的に自分から付き合っていかなければ、大学に残った甲斐が無いと云うものです。

一度でも、お互いにヘベレケになるほど、お酒を飲み交わせば、大体、仲良く付き合える様になるものですよ、男同士は。

飲めない人には失礼しました…。

しかし、風呂に一緒に入り、裸の付き合いをすれば、万事オッケー。

丸く収まります。

但し、仲良くなったとしても、あまりドべドべと相手の心に踏み込まない事が長く上手に付き合うコツですね。

女性同士の付き合いは、この歳になっても小生には全然、分かりませんが。

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