院長の独り言 246 ; 『Tの字』の極意

大学入学時に、ある教授が新入生歓迎の挨拶で声高らかに言いました。
先生曰く
『大学は専門性を高める学び舎である。
要は、生涯の進路の決定であります。
さらに言葉を変えれば、自分の職業を決定付け、素晴らしい職業人になるように勉強するのが大学ですから、勉強の虫になって頑張りなさい。
要はTの字になる事です!』
と挨拶しました。
大学に入学すると、2年間は教養課程で、数学、理科、社会、外国語などを高校より幅広く学習します。
様々な教養を身に付けるのが、文字通り、大学の教養課程なのです。
そして3年目から、専門課程に入ります。
歯学部専門課程では、人体解剖学に始まり、組織学、生理学、薬理学、細菌学、病理学など、人体に関する基礎的な勉強をした後、歯科に関する専門的な学問、例えば口腔外科学(抜歯、骨折の整復、炎症や腫瘍の治療)、歯科保存学(歯痛除去、歯周病の治療)、補綴学(入れ歯や被せ物の製作)、歯科矯正学などを勉強します。
大学在籍の6年間(教養課程2年、専門課程4年)では、一人前の歯科医師になるのには時間が短すぎるので、卒後、大学院に入学したり、専攻生になったりで、色々な形で歯学の研鑽に励む事になります。
何とか一人前の歯科医として社会で認められるには、大学を卒業してから随分と時間が経過してしまうのです。
特に専門性の強い職業である医師は、『何でも屋』であっては駄目で、ひと昔前の医師、歯科医師の極端に少ない時代に、何でも適当にこなしていた時なら兎も角、現在は、歯科医師の人数が過剰になっている事もあって、より高度な医療が求められます。
社会は『何でも屋』の医師より、専門性の高い医師を必要とするように変化してきました。
歯科医過剰時代を予測していたのか、『Tの字』になるように努力すべきである事を、50年以上前に強調していた先生の先見性には、本当に驚かされます。
『Tの字』のようになると云う事は、浅くて広い教養、技術を身につける事も大切だけれど、誰にも負けない得意な分野を確立し、出来るだけ深く追求し続ける事が大切であると、先生は新入生に強調したのです。
丁度、アルファベットのティ(T)の字の様に、横棒は広くて浅い知識を身に付ける事を意味し、と同時に、縦棒の様に一つだけは、誰にも負けない様な知識と技術を身に付ける事が、これからの人生にとって肝要であると仰った訳です。
ただ得意な分野を一つ持っているだけでは、人間の深みが出ないものです。
その背骨には、浅くても良いから、幅広い知識の裏付けが必要です。
医学だけではなく、政治、経済、哲学、歴史、美術、スポーツ、音楽などを、ある程度、知る事が肝要であると、教授は講義でも常に説いていました。

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