院長の独り言 38 ; 仕事に打ち込める幸福を、全ての働くひとに…

息子も歯科医師にならなければ、今のように多く、親子で会話する機会は無かったでしょう。

私も息子も、身内では全くの無口なので、以前は一緒に暮らしてはいても、今のように父子で会話する機会は有りませんでした。

特に息子が大学病院での勤務を辞め、当院で一緒に働くようになってからは、自動車通勤の車内で様々な話をします。

先日も仕事帰りの車内で、息子がポツリポツリと話し出しました。

当院では、インプラントの被せ物やセラミックの被せ物など、高度な審美性を要する歯科技工物は、デンタル・エボリューション社の歯科技工士 本田 圭さんにお願いしています。

先日、当院のインプラント治療の症例で、本田さんが作ったセラミックの補綴物(被せ物)が、息子の講演会で絶賛されたそうです。

その様子を、息子が電話で本田さんに伝えたところ、本田さんが会話途中、感動で絶句し、その様子に息子も思わず涙が出そうになったとの事です。

本田さんと息子は喧々諤々、技工物の質を向上させる為に頻回に相談し、時には声を荒げて、討論しています。

今回の話は、ここからが本題なのですが、息子が言うには、若い後輩達にその話をしても、全く信じて貰えなかったとの事です。

特に、クールな本田さんの普段の容貌を見知っている人ほど、本田さんの涙を信じないようです。

本田さんと息子は、『本当の情熱を持って仕事をしたことがない人は不幸だ』と話す一方、仕事に無心に打ち込める幸運を語り合ったそうです。

本当に仕事にのめり込んだ事のある人には分かる涙がある…。

ナリフリ構わず仕事に打ち込むと、素直に感情が出て、カッコつけて、クールに装う必要は有りません。

確かに今の日本社会においては、一生懸命に何かに打ち込む事が、カッコ悪いような風潮が有ります。

しかし、一生懸命何かに打ち込むと、外見など構って居れなくなります。

私も大学院時代、研究に打ち込むばかりに、頭髪に円形脱毛症を生じている事に、指摘されるまで気付かなかった程です。

東京工業大学準教授の上田紀行さんの近著に『かけがえのない人間』があります。

題名で予想されるように、現代社会における人間性軽視に対する、上田氏の魂の警鐘です。

確かに、派遣切りやリストラなど、人間を消耗品のように扱っている事に対しては、怒りを感じずには居られません。

一方で我々には、自分に消耗品のように扱われる素地はないのか、仕事と自分の関係性を検証してみる冷静な眼も、時には必要でしょう。

仕事で流した涙そのものを信じられなくなった人に、無心に、ナリフリ構わず、仕事に打ち込める幸福が舞い降りることを願うばかりです。

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