院長の独り言 298 ; すべて忘却の彼方へ、アディオス!

昔の事はよく覚えているのに、最近の出来事は、自分でも呆れるほどに、直ぐ忘れてしまいます…。
例えば、『昨日の朝食は、何だったか?』と問われても、なかなか思い出す事が出来ません。
果たして、煮物だったのか、刺身だったのか…。
ヒントを与えられても、思い出せない場合もあるのです。
自分でも情けないと、つくづく感じてしまう瞬間です。
ところが、20年も、30年も、昔の出来事で、覚える必要もないツマラナイ事でも覚えているのですから、思わず笑っちゃいます。
例えば、50年前の事ですが、パジャマの上からズボンを穿(は)いて、職場である医局に着くまで、まったく気が付かなかったこともありましたし(学位論文の執筆で悩んでいた時期でしたので…)、また同じ頃、茨城の水戸で、パトカーを追い越して捕まってしまった事(制限速度がフザケ過ぎの20㎞!の追い越し禁止区域でした…)などなど…、思い出したくもない事を直ぐ思い出してしまいます。
子供の頃の出来事は、もっと思い出すのが容易です。
一体、人間の脳の記憶力はどのようになっているのでしょうか?
40年間もの長い期間、歯科医院を開業していると、沢山の患者さんと関わります。
仕事柄、患者さんの顔と治療内容は間違えないように、必死に覚えるようにしてきました。
再来院した時に、いつでも、以前に治療した内容を把握しておかなければならないので、自分の施した治療は、常に憶えるように訓練してきました。
ある日の昼下がりに、20年間以上もご無沙汰していた患者さんが、ひょっこりと来院して、『先生、久し振り!』とニコニコ笑って、受付に立っています。
その患者さんの顔は覚えていましたが、名前が出てきません。
一応、診療室の治療チェアーに寝かせて、口の中を診た途端、『Nさんだ!』と名前も思い出したし、前治療の内容も全てハッキリと思い出したのです。
その時は、『つくづく歯医者だなぁ~』と、自分を褒めてやりたい気分です。
20年前にタイムスリップして、話は弾みましたが、私とすれば、一番指摘されたくないのが容貌の事で、特に『髪の毛が薄くなりましたね』です。
その点、Nさん、本当に容赦なく、私の気持ちを知ってか、知らずか、『先生、髪の毛が寂しくなってきたね~』ときたのです…。
ここに至って、Nさんが大変な皮肉屋であったのを、鮮烈に思い出したのです。
記憶には短期記憶と長期記憶があります。
全ての記憶は、海馬のニューロン(神経細胞)で保存、記憶されますが、ひとつの記憶は、幾つかの神経細胞に記憶されるそうで、ひとつの記憶がひとつの神経細胞に記録されるのではありません。
また、短期記憶とは、一瞬の10~20秒間の記憶で、訓練によっては、少しは永く憶えられるそうです。
常時、脳に飛び込んでくる記憶を直ぐに忘れてしまい、その中から絶対、憶えていなければならない出来事を、長期記憶として、貯金箱(海馬などの記憶脳)に保管して後出しするのです。
長期記憶は一生ものなのです。
その中には、憶える必要のない記憶が、無意識に混在してしまうこともあります。
皆さんも経験がありませんか、突然、思い出し笑いをしてしまうことが…。
小生の脳は、貯金箱が小さいせいか、もう満杯で、短期記憶だけになってしまったのでしょうか。
この頃は、すべての記憶がアッと云う間に、アディオス!
忘却の彼方です…。

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