院長の独り言 91 ; お米屋さんの想い出
今年は天候不順で、急に暑くなったと思うと、次の日になると冬のように寒かったりで、体調を整えるのにひと苦労しています。
昔から天気が社会の景気や政治などに多大な影響及ぼす事はよく知られています。
色々な原因で気候の変動が起こる訳ですが、例えば日本では東北地方で冷夏の原因として昔から恐れられている『やませ』や、世界的に異常気象を起こす『エルニーニョ現象』は有名です。
火山の噴火も地球規模で天気に影響を与えます。
今年4月にアイスランドの氷河火山が大爆発して、ヨーロッパを中心に飛行機が暫くの間、飛べなくなってしまった事は記憶に新しいところです。
現在は火山活動も小康を保っていますが、まだまだ安心は出来ません。
1991年、フィリピンのマニラに近いピナツボ火山が大爆発した映像を、皆さんもご記憶に有るかと思いますが、ピナツボ火山の爆発によって、噴火の時に出た大量の火山灰が原因で、日本が大変な冷夏に見舞われた事を、もう皆さん忘れてしまったのでは無いでしょうか。
あの夏は本当に寒い日が続き、7~8月になってもセーターが手放せませんでした。
案の定、秋に米が大不作になってしまい、我々には馴染みの薄い、タイから急遽、輸入した所謂『タイ米』が出回ったのでした。
其の時、幸運にも我が家は、普通の日本米、新潟産のコシヒカリをいつもと同じように口にする事が出来たのです。
家から1キロほど離れた所にお米屋さんはあったのですが、結婚した当座は、お米は近くのスーパーで色々な食糧と一緒に買っていました。
ところが、そのお米屋さんは50歳程の人の良さそうな夫婦で、二人で仲良さそうに商いをしていました。
ある日、『お米をウチで取って呉れませんか?』と売り込みに来たのです。
其の当時は、毎年、豊作に次ぐ豊作で国はお米の減反を必死に行っていた時期でした。
近所の人たちは私の家を含めて皆、お米をスーパーから買っていたので、そのお米屋さんからお米を取る人は近所にほとんどいなかったので、気の毒になり、我が家はそのお米屋さんから取り寄せる事にしたのです。
まさか、それから10年後にピナツボ火山の噴火が原因で、日本の米が大不作になるとは夢にも思いませんでした。
その大不作の年には、どこのスーパーからも、コシヒカリなどの日本産の米は姿を消してしまったのです。
『今年は美味しい日本のお米を口にする事は出来ない…』と諦めていたところ、『まいど~』と何時ものように、お米屋のおじさんがコシヒカリを担いで持って来て呉れたのです。
スーパーでは全く売っていないコシヒカリを見て、近所の奥さんが『私もコシヒカリを欲しい!』と頼んでいましたが、『申し訳ありませんが、もう、売る日本産のお米は有りません』と真顔で、取り付く島がない感じで断っていました。
何だか悪いような後ろめたいような妙な気持ちになりましたが、下手な事を言うと喧嘩になりそうだったので、その時は黙っている以外に為す術が有りませんでした…。
それから数年経ったある日、お米屋さんの奥さんが『主人が胃がんになった…』と告げて、ついには『米屋を廃業する』と言って帰りました。
それ以来、お米屋さんのご夫婦にお会いした事は有りません。
火山の大噴火の報道をテレビで見ていたら、コシヒカリをニコニコしながら担いで持って来て呉れた、お米屋さんの顔がフッと浮かんできたのでした。