院長の独り言 357 ; iPS細胞が照らす未来医療
山中伸弥博士はiPS細胞を作り出して、昨年のノーベル生理学•医学賞を授与された京都大学の教授です。
先生へのノーベル賞の授与は、日本人として、大変、誇りに思います。
過去、体細胞の核を卵子に移植することにより、個体を作り出し、所謂、『クローン羊のドリー』を誕生させて、世界を『アッ』と驚かせたイギリスのイアン・ウイルムット博士がいました。
このドリーを作るに当たっては、核を卵子の中に入れることが必須条件でした。
これは、たいへん細かい手術を必要とし、成功率が非常に低いのです。
ところが核と卵子を操作しなくとも、遺伝子を皮膚細胞に入れるだけで、身体のあらゆる器官を再生出来ると、山中先生は証明したのです。
それがiPS細胞による臓器再生です。
この研究が成就すれば、医療に多大な貢献をすると思われます。
胃でも、膵臓でも、腎臓でも、身体のどの器官でも、再生可能と云う事です。
生理学者によると、卵子への移植を経ずにリプログラミング(高度に分化した臓器の核を、受精した直後の未分化の状態に戻すこと)することは、不可能だと思われていたそうです。
それが可能となる道づけをしたのが山中先生です。
臨床にも携わっていた山中先生は、『困っている患者さんを助けたい』ことが、一番の目標と言っています。
iPS細胞から作った網膜細胞を移植する臨床実験を、今年にも始める予定だそうです。
細胞の分化は、意外にも、数少ない遺伝子に支配されていてると云うことが、山中先生のiPS細胞の研究から明らかになってきているのです。
身体の一部が、不幸にも消失した人にとっては、大変な朗報です。
一方、ある意味において、iPS細胞はガン細胞と同じで、増殖する未分化細胞です。
一寸狂ってiPS細胞が分裂分化すると、実際、癌化してしまう恐れがあります。
しかし、不完全なiPS細胞が癌化するのを防ぐ方法は、すでに見つかっているそうです。
いずれにしても、この偉大なる研究が、人類の大きな幸せに繋がることを祈っています。
歯科領域においても、iPS細胞に期待大と云うところです。
みなさん、抜けた自分の歯を見ると、『なんと単純な臓器だろう!』と思ったことが、あるやも知れません。
そして、『歯は、iPS細胞で、すぐにも再生できるだろう!』と、考えていると思いますが、いまだ、歯の再生は為されていません。
なぜなら、歯とそれを支える歯周組織は、非常に緻密な構造を持つ臓器なのです。
現在、歯医者を『歯を治療するところ』と考えている方も多いです。
勿論、歯を治療するのですが、それだけではなく、むしろ『一生、心地良く噛めるように、歯を疾患から予防するところ』なのです。
一度、歯を失うと、咀嚼機能の回復は、難しいのです
当院では、腕の良い歯科衛生士たちが、日々、研鑽に励んで、予防歯科を実践していますよ。
是非、それぞれの個人に合った、定期的なお口の中の清掃をお勧めします。