院長の独り言 281 ; 海水に浸かった土地の再生
以前のブログ(院長の独り言264 ; 植物の生命の尽きる時)に、自宅の鉢植えのシクラメンを観察していて、植物の水を吸い取る力は驚嘆すべきものがあると書きました。
植物はわれわれ動物と違い、移動する事が出来ません。
しかし、意外に思うでしょうが、大昔(30億年以上前の話ですが)、植物も動物と同じように動く事が出来ていたのです。
海の中で生息していた植物が陸に上がり、光合成によって栄養分を合成でき、動く必要が無くなったと云う訳です。
植物が生きる為には、太陽エネルギー以外に、水が必須です。
水分の摂取は、雨次第です。
潤沢に雨が降れば問題ないのですが、日照りが続く時もあるのですから、植物にとって水分の摂取は、太陽エネルギーを取り込むように簡単にはいきません。
植物は、そう云う時は必死なのです。
何しろ動けないのですから…。
ちなみに、ここで話している植物は、動物と対比しての話で、一般的に我々が認識している範囲の『植物』と理解して下さい。
専門的になると『植物』の定義は大変、難しいのです。
一応、動物と植物の区別は、動ける、動けないかは別にして、細胞レベルでは、細胞膜があるのが植物、無いのが動物と分類されています。
植物は、自分自身で生きていくのに必要な栄養分を、作り出す事が出来ますが、動物はそれが出来ないので、自ら動いて、食物を摂取しなければなりません。
換言すれば、植物は自立型であり、動物は寄生型と言う事になります。
人間は、牛や豚を飼育したり、魚を養殖したり、または野菜を作ったりしますが、食物を常に自ら調達しなければならない、その他の動物は、生きていくのは本当に厳しいものです。
植物は、水さえ簡単に手に入れば、生きていくのは、動物より楽かも知れませんね。
植物は永い、永い期間をかけて、少量の水でも無駄なく吸い上げる力を獲得したのでしょう。
その方法は、根を広範囲に伸ばしていくか、水を吸収する力を身に付けるほかありません(導管、篩管などの話は、またの機会に…)。
40年前に八王子で歯科医院を開業した時、甲州街道にある、多摩川に掛かっている日野橋を渡って通勤していました。
当時、日野橋から多摩川を見下すと、大きな中州があり、雑草が中州を覆っていたので、中州は小さな雑草の島のようでした。
ところがある時、関東地方に台風が襲来したのです。
35年ぐらい前だったと思います。
その中州に、上流から流されてきた、長さ1~2メートルの枝が数本、引っ掛かったのです。
その時は別に気にも留めなかったのですが、7~8年経ったある時、日野橋から見る多摩川の景色が、何となく違うのに気がついたのです。
どうしてだろうと橋の上からジックリ眺めて見ると、景色が変わったのも道理で、雑草だらけだった中州が、背丈5~6メートルの低木の生い茂っている林に変身しているではないですか。
考えてみれば、植物にとって生きていくのに、こんなに良い条件はそうざらにはありません。
日光は燦々(さんさん)と降り注ぐし、多摩川の水もたっぷりです。
現に、青々とした木々の大集落が、短期間で形成されていました。
この事実からして、東日本大震災で破壊された陸前高田の松林は勿論、大津波に襲われて破壊された植物は、意外に早く再生出来るのではないかと思いました。
早期に蘇(よみがえ)る事、間違いないでしょう。
植物が定着してくれれば、塩水に漬かった土地も、その保水力から再生されるでしょう。
問題はむしろ、人間の精神の方かも知れませんね。
悔しい事に、紀伊半島も、台風で大被害を受けてしまいました。
今年の日本列島はどうなっているのでしょうか。
自然界に間借りさせてもらっている立場を、思い知らされますね。