院長の独り言 280 ; 医療技術の驚くべき進歩
医科歯科大学歯学部2年生の時、内科の授業で、老化についての講義を受けました。
内科教授曰く『老化には、回復不可能な真の老化と改善可能なニセの老化のふた通りがある』との事。
真の老化とは、大脳皮質がやられてしまった場合で、昔風に言えば『脳軟化症』、所謂、『認知症』です。
この認知症、教授の話していた頃は、病状の進行するがママでしたが、現在は医療技術の進歩により、進行度合をある程度、遅らせる事が出来るようになってきました。
主に、薬物療法の進歩ですが、アルツハイマー型認知症の進行を遅らせる『アリセプト』という薬、または、現在、治験中である、アルツハイマー病の根治を目指す『レンバー』などの薬です。
しかし、現在の最先端医学をもってしても、認知症の多くを占める脳血管性認知症などは、根治が困難です。
一方、ニセの老化とは具体的にどう云うものを言うのでしょうか。
昔から、目、歯、耳が衰えてくると、年寄り扱いされると言うより、自分自身で身体の衰えを痛感させられる事、しばしばです。
この三つの感覚の衰えが、『ニセの老化である!』と教授は言うのです。
ニセの老化は真の老化と異なり、脳が機能不全を起こしている訳ではありません。
ニセの老化は治療する事で治癒するか、あるいは大幅に改善するのです。
白内障や老眼になると、若い頃と違い、字も読み辛くなるし、歯が抜け緩んでしまうと、肉や線維性の野菜などを、つい敬遠します。
また、耳が遠くなれば、周りの人の会話について行けません。
勝手に、自ら老化と決めてしまい、行動も消極的になり勝ちです。
このニセの老化は、真の老化と違い、『改善余地があるのだから、絶対に落ち込む事はない!』と教授は強調していました。
ところが、教授が当時、強調していたより、現在は信じられないほどに、ニセの老化に対する医療は進歩してきているのです。
実は、このニセの老化撃退法には、医療工学の驚異的進歩によるところが多いのです。
老眼の場合は私もですが、素晴らしく精巧になった老眼鏡を掛けた事により改善していますし、白内障で物が光って眩しく見えたり、ぼやけて見えている場合は、人工の眼内レンズで見事に解決です。
老人性難聴には、補聴器(骨伝導など)の性能が随分、改善されてきていて、ひと昔前の雑音入りの、大きな補聴器とは全く違います。
さて、私の専門である歯科ですが、最近10年間の進歩は驚くべきものがあります。
全歯28本の8割が残存している人の咬む力を100とした場合、総義歯では、数パーセント程度しか、その機能の回復を期待出来ないと言われています。
総義歯では、硬軟すべての食物を咀嚼する事など、土台、無理な相談なのです…。
オーバーでなく、総義歯での食事は、殆ど呑みこんでいる状態です。
結果、消化器官に、過度の負担を強いる事になります。
また、噛む刺激が脳にあまり伝わらない事により、それこそ、ニセの老化から真の老化である認知症に移行してしまったら大変です。
若者に負けないほど元気で、しかも長生きしているご老人は、歯が丈夫である人が多いと言われています。
しかし、歯が全く無くなってしまった人でも、ガッカリする事はありません。
驚く事に、インプラント治療を施せば、咬む力は28本歯を持っている人と何ら変わらなくなるのです。
風貌も口の周りに張りが出て、歯科医師がビックリするほど若返る人もいます。
また、歯が一本無くなると、従来は、歯の欠損した部位の前後にある、健全な歯を削って、更に歯の神経を取り、ブリッジを入れていたのですが、インプラントを入れれば、前後の歯を痛めつける事も全く有りません。
インプラント治療でも、眼内レンズでも、そして骨伝導補聴器でも、良い事ずくめですが、健康保険が効かないので、ある程度の費用は掛かります。
前述のように、インプラント治療の場合、医療工学の画期的進歩のお陰が大ですが、それを施す側の術者の技量が伴わなければ、何もなりません。
更には、治療を成功させるにはドクターだけでなく、衛生士をはじめスタッフ全員の努力が欠かせないのです。
患者さんから『本当に美味しく物が食べられるようになりました!』と言われる事が、我々スタッフ全員の願いです。