院長の独り言 176 ; 大学教官の仕事
前回のブログ(院長の独り言175)で、突飛に焼き肉を食べに行った事を書きましたが、また大学生活の話に戻します。
何しろ、1年振りに焼き肉を食べに行ったので、つい書きたくなったのです…。
大学教官の仕事は、大まかに言えば、学生指導、研究、治療の三本柱です。
学校ですから、第一は当然、学生指導と云う事になります。
そして研究です。
治療技術の向上を目指しての研究です。
いくら大学院で研究したからと言っても、助手になっても、講師になっても、大学の教室に籍を置く以上、たとえ教授であっても研究を続けなければならないのです。
研究をしない医局員は『無能の烙印』を押されてしまうので、大学の医局に残る事は、決して気楽では無いのです。
もう一つの大事な仕事は、患者さんの治療です。
私が所属していた教室は、東京医科歯科大学歯学部の臨床系講座でした。
大学の歯学部自体、歯科医師の養成機関ですから、色々な症例を学生に見せながら、教育するのです。
当然、口腔のあらゆる疾患を見せて、勉強させなければなりません。
口の中の狭い領域でも、様々な病気が存在するものです。
一番、知られている虫歯、歯周病、歯牙欠損症の他に、顎関節疾患、口腔癌、顎骨の骨折、唾液腺疾患などなど、挙げれば切りがない程です。
歯の審美治療も大変、大切です。
歯並びを気にしていると、人間は心も憂鬱になるものです。
自分が治療を出来る、出来ないはさて置いて、様々な疾患を知り、治療方法だけでも把握して、実際に患者さんに説明出来ないと、イザと言う時に恥をかいてしまいます。
まず学生は、5年生になると治療現場の見学です。
『ポリクリ』と言います。
口腔外科、矯正科、保存科、補綴科、小児歯科など臨床各科を小さいグループに分かれて見て回るのです。
朝から夕方まで、各科の教授、助教授、講師、そして助手の教官の治療を見学するのです。
要するに、治療の現場で患者さんを見ながら、各科の教官の説明を受けて勉強するのです。
私は臨床系の保存科に所属していました。
保存科とは、読んで字の如し。
虫歯や歯周病から歯、歯肉、歯槽骨を健全に保って、楽しく食事が摂れるように治療する事を目的にしている教室です。
その目的の為に、研究や治療をしているのです。
1人前の開業医になる為に最小限、身に付けなければならないのは、保存、補綴、口腔外科です。
歯科矯正科などの特殊な分野は、それだけを専門に開業している歯科医師がいます。
一般の歯科開業医は、そのような専門医に依頼する事になります。
歯科医師になる基本中の基本を指導しているのが、保存科と云う事です。
小生は、その大事な科で学生を指導している教官の一員だったのです。
まだ若輩者だったので、学生に馬鹿にされないように一生懸命、学生を教えていると、自分の方も色々な意味で上達するのです。
教官になると云う事は、自分にとって最大の研鑽でした。
学生の為だけでなく、自分自身の向上の場でもあったのです。
遠い昔の話です…。
もう一つ、大学病院での診療がどうしても必要なのは、開業医や地域病院では治療するのが難しい疾患の受け皿になっていると云う事です。
長年、大学で指導、研究、治療をしているベテランの名医(教授、助教授、講師等)がその任に当たるのです。
私にとっても、上司である先輩の先生の治療は勉強になりました。
開業を目的にしている若いドクターは、やはり大学にある期間、残って、勉強するものだと、この歳になった今でもつくづく感じています。