院長の独り言 114 ; 歯科治療の考え方は歴史的にも、地域的にも違う

私が医局に在籍していた40年以上前に、外科的な治療を中心としたアメリカ発の歯周病治療法の新しい波が、押し寄せるように日本の歯科界に入ってきました。

その当時は、歯周病の事を歯槽膿漏と一般的に言っていましたので、お年寄りの方には今でも、歯茎の炎症を歯槽膿漏と言った方が分かって呉れます。

歯槽膿漏は読んで字の如し、歯周病菌に感染して炎症を起こした歯茎から膿が出て、その結果、歯を支えている骨が溶け、歯がグラグラになる疾患です。

以前のブログでも触れましたが、当時は虫歯になった歯を早く綺麗に削る回転切削器具が無かったので、痛くなった歯は抜歯してしまう場合が多く、その後の欠損は所謂、入れ歯(義歯)を装着すると云う治療法が主流でした。

まだしっかりしていた歯でも、痛い歯は抜いてしまう歯科医師が多かったので、若くして歯が無くなり、入れ歯を装着している人が、今よりずっとずっと多かったのです。

歯周病になるより早く、歯が無くなってしまっているので、重度の歯周病患者は幸いと云うか逆に、治療法のオプションが拡がった今より少なかったのです。

歯が無いのですから、歯周病に成り様がありません…。

現在、主な歯科治療は、一つは歯そのものの治療、いわゆる虫歯の治療です。

もう一つは、歯周組織である歯茎(はぐき)の病変を治す、歯周病の治療です。

タービンなどの高速切削機器の大変な進歩のおかげで、長時間、虫歯を削られる不快さが無くなりました。

虫歯の治療は40年前と比較すると、格段に歯を保存する事を重視して行えます。

現在、虫歯が原因で歯が無くなる事は、殆どと言って良いほどありません。

しかし、歯が長持ちすると云う事は、よほど注意して口腔中を清掃しないと、歯周病になると云う事です。

6月4日の虫歯予防デーにテレビで見ましたが、インタビューで『歯科医院に、どういう時に行きますか?』という質問に、欧米の人は『自分では口の中の異常を感じなくても、年に2、3度は健診を兼ねて、歯科医院に歯の掃除をしに行きます』と全員が答えていました。

一方、インタビューを受けた日本人の殆どが、『基本的には痛くなった時だけ、治療に行く』と言っていました。

小生が歯学部の学生の頃には、既に、口の中の細菌が血管を通じて、全身のあちこちの臓器、例えば心臓、腎臓などに飛んで行く事を教わっていました。

その口腔内細菌が心筋梗塞や脳梗塞の原因となり、また腎臓や肝臓などの臓器に悪い影響を与えると言われていたのです。

しかし、この事が長い間、社会的にあまり問題視されていませんでした。

約10年前から、アメリカの心臓外科学会や歯周病学会でカリフォルニア大学の先生や、わが母校の東京医科歯科大学の先生を中心に、口腔内細菌を心筋梗塞や脳梗塞を起こす重大な原因の一つとする研究結果が報告され出したのです。

特に、歯茎から膿が出ている症例は早急に抜歯すべきであると提言しています。

日本でも、同じ事を言う歯科医師や医師が多くなってきています。

全身疾患と歯周病が関連しているという研究結果は非常にショッキングで、NHKや民放でも歯周病の特集番組が頻繁に放送されるようになってきました。

その番組中では、歯周病学の大学教授がやはり同じように、病原性の高い歯周病菌の怖さを強調しているのです。

命あっての物種です。

歯科医院などの専門施設で、定期的な歯のお掃除をすることをお勧めします。

万が一、不幸にも膿が出てグラグラの歯が口の中にあったら、思い切って、抜歯も選択肢の一つとして考えても良いでしょう。

勿論、専門家である歯科医師の診断を仰いでから…の話です。

行き過ぎである面も確かにありますが、欧米では重度の歯周病に罹患している歯は、炎症で骨が溶け切ってしまう前に抜歯して、インプラントを埋める事を勧める歯科医師が多くなっています。

わが医院には3DであるCT撮影装置や血液検査などにより、より精緻に歯周病の状態を測る手段がありますし、歯周組織の再生治療など先進的な歯周病治療も行っております。

お悩みの方は是非、ご相談ください。