院長の独り言 296 ; 若いひとを祝福して、育てていこう

バブルが弾けてから20年以上経つのに、我が国は一向に景気が良くなりません。
加えて、2008年のリーマンショックで、アメリカ経済が大打撃を受け、世界中がそのショックの余波をモロに受けてしまいました。
これらはすべて、欧米の投資銀行の、あまりにも自己中心的で、強欲な行為(Greed)による人災です。
そこに今年、日本は東日本大震災による大災害を受けてしまいました。
さらに、原発事故の酷(ひど)い被害…。
これも明らかに人災です。
そしてギリシア国債の下落による欧州金融危機…。
益々、日本は追い込まれています。
世の中暗い事ばかり起きてしまい、気が沈んでしまいます。
自殺者の増加、会社の倒産、若者の就職難、そして若者による犯罪…。
数え上げれば限(きり)がありません。
気が晴れる日は来るのでしょうか。
先日、ボーとテレビを見ていると、結婚式が行われています。
皆に祝福されて、幸せの絶頂にある新郎新婦の笑顔が、画面一杯に映し出されます。
おもむろに、10年前に読んだ、源氏鶏太氏の『わたしの人生案内』の一文を思い出しました。
このエッセイ集は、50遍ほどの短いエッセイをまとめた作品集です。
源氏鶏太氏は、サラリーマンの悲喜交々の日常生活を題材に、『三等重役』や『若い仲間』など映画化された作品も多い、大衆作家です。
どの小文も大変面白いのですが、その中で妙に頭の中に残る、『駅前の食堂』と題されたエッセイを紹介します。

(以下、要約引用)
ある地方の駅前食堂の話です。その食堂の2階で、会社の同僚男女10人ぐらいが集まって、にぎやかに酒を飲みながら食事をしていました。
傍から見ていても、本当に楽しそうでした。
その同じ食堂の片隅で、ひっそりと寄り添うように食事をしている若い男女がいたのです。
二人は、服装から貧しい会社員同士のようです。
その二人は、にぎやかなグループの方を眺めて何かヒソヒソ話をしていたのだが、意を決して起ちあがり、グループの方に近寄って行ったのです。
『たいへん失礼ですが…』
二人がひどく緊張しているのはその表情を見れば明らかです。
突然の飛び入りに、今まで、にぎやかに酒を飲んでいたグループは一瞬、シーン。
『何か…』グループの中の一番年長の課長らしき人が言いました。
『実は、私たち、たった今、八幡様で二人だけの結婚式を挙げてきました』
グループの人々は信じられないと云う顔をしました。
しかし、若い男は、自分の名刺を出して、更に、コンブとスルメ等を見せたのです。
『私たち、二人とも孤独で祝って呉れる近親者もいません。さっきから向こうの席で拝見していますと、たいへんにぎやかそうなので羨ましくなりました』
もし差し支えなかったら、ご一緒させて欲しいと突飛な申し出があったのです。
グループの一人が『結構じゃありませんか』と言うと、他の人々も『賛成、賛成』。
たちまち二人のために新しく中央の席が出来たのです。
『おめでとう』『乾杯!』皆はそう言っただけでなく、何人かが立って、祝辞も述べたのです。
さっきまで赤の他人同士であったのに、今の二人は、人々から百年の知己のように迎えられ、祝福されているのです。
若い二人は本当に幸せそうでした。
おそらく、二人にとって、人々の好意は、どんな盛大な披露宴より嬉しく感じ一生忘れる事はないでしょう。
(引用終わり)

何でこのエッセイが頭に突然浮かんできたのか、自分でも不思議なのです。
今の日本が不景気とは云え、私が子供のころの方が貧しくて、不便な世の中でしたが、人と人との触れ合いは、実に暖かいものでした。
ブログにも書きましたが、子供のころ、玄関のカギを掛けていた家は、周りには一軒もありませんでした。
近所のガキが悪さをすれば、赤の他人でも本気で怒って注意して呉れました。
いじめなど勿論、無かったと云うより、周りがさせなかったのです。
本当に、自分が子供の頃のように人と人がもう少し触れあうような世の中にならないものでしょうか。
映画ひとつとっても、殺し合いか機械人間などで、人情味のある心の琴線に触れる作品が本当に少なくなってしまいました(この事も大分前のブログに書きましたね)。
今の人は、自宅に何重もカギを掛けて生活しているなんて。
むかしは、近所のおばさん同士、しょっちゅうお互いのうちを自分の家のように出入りしていましたし、夕飯のおかずも融通し合っていました。
源氏さんのエッセイは、今となっては、完全にノスタルジーの世界ですが、もしかすると、大震災を機に、再び助け合いの精神が注目されるかも知れませんね。
われわれ壮年期を過ぎた大人たちが、老後の心配に駆られて、若い人たちを助けないと、日本は本当に駄目になってしまう…。

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