院長の独り言 315 ; 江戸川乱歩『芋虫』

小学校高学年から中学校を卒業するまで、私は江戸川乱歩の少年向け探偵小説『怪人二十面相』にゾッコンでした。
親に買って貰い、何度も、何度も、読みかえします。
今でも、その単行本を自宅に保管しているほどです。
この『怪人二十面相』は、昭和11年(1936年)に雑誌『少年倶楽部』に連載されて、人気を博し、後に単行本が売り出されたのです。
名探偵 明智小五郎と小林少年が率いる少年探偵団が、変装名人である怪人二十面相と対決して、様々な難事件を解決していくと云う、皆さんご存知の子供向けの痛快小説です。
小生、乱歩が推理小説作家として、勧善懲悪の探偵小説ばかり書いていると思い込んでいました。
忘れもしません。
大学に入った年の夏休みに、神田神保町の古本屋で『芋虫』と云う乱歩の短編集を見付けたのです。
乱歩の小説ですから、例によって、昆虫の生態でも書かれている、科学解説本だと思って買ったのです。
でも、乱歩らしく、一寸風変わりな推理的昆虫小説ではないかと、期待半分興味半分と言ったところでした。
普通の昆虫解説書と何処が違うのか、自宅に早く持ち帰って、読みたい気持ちで一杯でした。
驚きました。
読んでみての感想ですが、自分の頭の中に出来あがっていた、江戸川乱歩が書いたものとは信じられませんでした。
全く、昆虫解説本とは違うのでした。
簡単な内容を説明します。
戦争で命は助かったものの、主人公である元兵士は、傷痍軍人として、故郷に帰って来たのです。
大変な傷を負って…。
両手両足が無くなり、視覚と触覚以外は、五体のほとんどの機能が消失、まるで見た目は、芋虫のようになってしまったのでした。
題名はここからきているのです。
その芋虫のようになってしまい、自分の意思で全く動く事の出来なくなってしまった旦那を、奥さんが苛(いじ)めるのです。
過って、貞節だった奥さんが、動けない旦那をいたぶり、虐げます。
最後には、見えていた目も、奥さんは潰してしまいます。
読んでいて気持ちが悪くなってしまいました。
こんな内容の小説を江戸川乱歩が書いたという事実に、若かった自分は、大変なショックを受けてしまいました。
しかし、その後、乱歩は推理探偵小説以外にも、様々な変わった小説を書いている事が分かりました。
自分の勉強不足が恥ずかしい限りです。
いま思うに、小説『芋虫』は、人間の業の恐ろしさを書いたのです。
要するに、変形した愛欲小説だったのですね。
読んでない人は、気持ちが悪くなる事を覚悟で読んでみて下さい。
最近、『キャタピラー』という題名で、脚色映画化されたようです。
原作を思い返すと、あまり見る気が起きませんが…。

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