院長の独り言 346 ; 喉越しツルツル、新潟名物のへきそば

わが歯科医院の近くに、新潟魚沼の名物を出すそば屋さんを見付けました。
弥彦(やひこ)という名前のおそば屋さんです。
そのお店のそばを口に入れると、たいへんなツルツル感があるのです。
齢七十余年、私はこんな感触のソバを初めて食しました。
ツルツルしているうどんは、世の中に沢山出回っていますが、そばは大変珍しいと思います。
私の恩師であり、今は亡き鈴木賢策東京医科歯科大学教授が新潟県魚沼市浦佐出身です。
教授には現役の頃、よくおそばを食べに連れていってもらいましたが、このツルツル蕎麦を出すおそば屋さんに連れてって貰った経験はありません。
ツルツルそばの話は大変なそば好きの教授の口から、一度も聞いた事がなかったのですから、もしかすると魚沼の名物ではないのかも知れません。
(名物であったら、魚沼の方々、申し訳ありません!)
通常のそばは、繋ぎには小麦粉を使うので、パサパサして喉に引っかかる感じがします。
しかし、このツルツルそばは喉越し滑らかで、スッキリした感じです。
小麦の代わりに繋ぎは『ふのり』と云う海藻を使用しているのだそうです。
正式には『へぎ蕎麦』と言って、特殊な『へぎ』と云う器に入れて、そばが供されます。
そばを笊(ざる)に入れて出してくるのが普通の蕎麦屋さんですが、『へぎ蕎麦』は、見た目がもりそばでも、陶器で作った笊に似せた入れ物に盛って出してくるのです。
魚沼のそばと聞いたので、そば好きの教授のニコニコ顔が直ぐ目に浮かびました。
ついでに、自分の若かりし頃の医局生活が思い出され、研究と学生指導に明け暮れていた50年前が蘇った気分でした。
先輩によると、研究に熱を入れていた40代の鈴木教授は、大変厳しくて怖い鬼のような師匠で、その鋭い眼差しで見つめられると、蛇に睨まれたカエル、傍に行くのも憚られる程だったとの事…。
『よく、教授と二人でソバなど食いに行けるな!』
『俺など緊張して、いくら何でもそばが喉に引っかかってしまうよ!』
と先輩方に言われていましたが、私が入局した頃は、功も名も共に成し遂げた鈴木教授は、小生など孫みたいな存在だったでしょう。
一度も怖いと感じた事はありませんでした。
教授から誘いがあれば、二人で何処へでも平気で出かけていました。
しかし、教授の世界的な素晴らしい業績を考えれば、若い時はさぞかし厳しい先生であったのは、容易に想像出来ます。
教授の発明した『根管長測定器』は、歯髄処置(炎症を起こしている歯の神経を除去して詰め物をする治療)をする時は必ず、世界中で使われているのです。
この測定器のお陰で歯を抜かずに保存出来るので、患者さんにも多大に貢献しているし、われわれ歯科医にとっては無くてはならない器具なのです。
思えば、あの頃の鈴木教授と同じような歳に、小生もなりました。
教授と一杯飲みながら、ツルツル『へぎ蕎麦』を食べてみたいと、心から思います。

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