院長の独り言 320 ; 顎関節症の患者さんが増えています

八王子市で歯科医院を開業した昭和47年。
今から40年前に、『顎(あご)が痛くて、食事が辛い』や『口を大きく開けられない』など、顎関節の不調を訴えて来院する患者さんは、大変、少なかったのです。
虫歯の治療や義歯製作を希望する患者さんが、ほとんどでした。
ところが、最近、顎関節の不調を訴えて、当院を受診する患者さんが、驚くほど多くなっています。
顎関節の不調は、今と同じように、昔から存在していたと考えられますが、自分が大学病院に勤務していた時、顎関節の治療は、口腔外科で対応して、現在のように独立した治療部はありませんでした。
顎関節の不調で、大学病院を受診する患者さんが少なかったからでしょう。
やはり、顎関節の病気、主に顎関節症の患者さんが、大幅に増加してきているのでしょうか。
おまけに、患者さんが訴える症状が、以前より複雑になってきているのです。
『口を大きく開けられない』とか、『硬い物を食べる事が出来ない』など、顎関節の機能不全に直結している訴えは、当然ですが、もっと深刻で複雑な訴えが随伴しているのです。
『頭が痛い』『舌先や舌縁がヒリヒリする』『首のコリ、肩コリがする』、『腰が痛い』『手や足が痺れる』『のどや耳が詰まった感じがする』『よく眠れない』などなど…、多くの不定愁訴を、伴っているのです。
息子が口腔外科出身で、今でも、大学の顎関節治療部の非常勤講師なので、顎関節の不調を訴えて来院する患者さんで、テンテコ舞い状態です。
多くの患者さんは、うつや不安を呈しているようです。
初診時は、面接だけでも、1時間は話し込んでいます。
現代のようなストレスフルな社会を乗り越えるために、無意識に歯を噛みしめてしまい、顎に過度の負担が掛かっているのでしょうか?
俗論ですが、現代に生きていると、硬い食べ物が少なくなり、軟らかい食べ物ばかりで、咀嚼筋が衰え、顎骨が小さくなってしまい、ただ単に、日常生活を送っているだけでも、顎関節や周囲組織を痛めつけているのかもしれませんね。
一歯科医院で、患者さんたちのお口を定点観測しているだけでも、現代人の顎骨が脆弱になっているのを伺い知れます。
若い患者さんの顎をレントゲン写真で観察すると、親知らず(第三大臼歯)だけでなく、永久歯の萌出するスペースがなくて、埋伏したまま、顎骨から生えてこない歯が多いのです。
もっと言えば、考古学の博物館を訪れれば、一目瞭然です。
縄文人の下顎骨を観察すると、親知らずまでキチンと歯が生え揃っていて、奥歯が咬耗で歯の半分くらいまで擦り減っています。
いかに硬い物を食べていたか、想像に難くありません。
歯が擦り減っていると云う事は、食べ物が良く噛めていた証拠でしょう。
顎が痛いと云う悩みも、現代ほど、多くなかったのかも知れません。
今ほど、複雑な人間関係も無かったでしょうし…。
ストレスフルな現在、精神状態が寄与因子となって、顎関節の不調などの身体症状を引き起こしているのです。
息子の恩師、東京医科歯科大学歯学部附属病院の顎関節治療部の木野孔司部長が、先日、テレビ番組に出演して、TCH(Tooth contacting habit;上下歯列接触癖)について解説していました。
不安やストレスが切っ掛けとなり、TCHやくいしばりが癖となってしまい、顎関節症や肩コリを治りにくくしている、というお話でした。
TCHの対処法として、『張り紙法』を推奨していました。
『張り紙法』とは、身体の緊張を正確に認識することにより、リラックスした状態を学習する方法です。
TCHのある人は、睡眠時の歯ぎしりも伴うと、報告されています。
歯ぎしりは、睡眠時の行動ですから、本人が意識して治す訳にはいきません。
そこで、起きている時に、自分の部屋や居間など、3分間以上、滞在する場所すべてに、『歯をはなして、リラックス!』の張り紙をして、張り紙を見るように心がけ、TCHを止めるのです。
もしTCHをしていたら、全身の緊張感を意識しながら、息をゆっくり吐くのです。
『溜息をつく』感じです、分かりますか?
この方法は、顎関節症の治療としても、効果が期待出来るのです。
是非、試してみてください。

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